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 小路幸也 の記事一覧
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『空へ向かう花』 小路幸也 講談社 
2008.10.15.Wed / 23:58 
空へ向かう花空へ向かう花
(2008/09/26)
小路 幸也

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 ある日、違う小学校に通う、6年生のハルと花歩が出会う。ハルがビルの屋上から飛び降りようとしたとき、花歩が鏡で光を当てて自殺を止めたのだった。ハルは、女の子を殺したという。花歩は、その女の子の親友だった。

 やっぱりやっぱり小路さんの小説は、いい。

 胸がじんときて、涙をこらえるのが困るほどだった。

 そりゃあ、自殺とか虐待とか、訳ありの子供同士の会話なんて、誰だってほろりとなるだろうし、優しい気持ちになるのは当たり前かもしれない。そういう意味で子供を出すのは、ある意味反則だと思う。でも小路さんのすごいところは、子供とちゃんと向き合ってくれる大人を出してきてくれるところだ。この大人というのがちょっと変わっていて、ホームレス一歩手前という、50歳後半のイザさん。それに花屋でバイトをしている大学生の桔平さん。どちらもとても魅力のある人物だった。

 事故の加害者と被害者がいて、それぞれに嘆いて、苦しんで、悩んでいる。善人であればあるほどその苦悩は計り知れない。そんな、捻じくれ、収拾のつかなくなった事態を、大人というのは、いったいどんなふうに落とし前をつけていくのか。

 事故の詳細も多額の賠償請求についても、また、お互いの両親の苦悩もぼんやりとしか、描かれてはいない。だが、たまには何も考えずに最高に純真な心だけに触れてみるのもいいではないか。綺麗事だと言われれば返す言葉もないが、善意だけで成り立っている小説を脇目も振らずに、ただただ貪り読むのも、無上の喜びなのである。一気読み。

 お薦め。


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 「粋な提案」http://1iki.blog19.fc2.com/blog-entry-586.html

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『モーニング Mourning』 小路幸也 実業之日本社 
2008.03.28.Fri / 00:10 
モーニング Mourningモーニング Mourning
(2008/03/19)
小路 幸也

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  ★★★★★

 友人の葬儀に出席した45歳の中年男たち。大学時代にバンドを組み、4年間一つ屋根の下で生活した5人だった。卒業後、20年ぶりに揃ったというのに、そのうちの一人は事故死していた。葬儀が終わり、福岡からそれぞれの家へ帰ろうとしたとき、俳優になった淳平が突然言い出す。「自殺するんだ。俺は」何故だ。理由を言ってみろ。言えない。押し問答が続いたあと、「俺が死ぬ理由。思い出してくれたら、死ぬのをやめる」と。そういうわけで、4人は喪服を着たまま、東京へ向かってロングドライブをすることになった。

 もう掛け値なしに良かった。

 文章のリズムとか、スッと入ってくる文体とか、過去と現在のメリハリのある話とか、あるいは軽やかな会話とちょっとしんみりした自分語りとか、なんというのか、とにかく肌に合う作家である。読んでいて実に気持ちがいいのである。とくにこういう45歳の中年男たちの大学時代の話というのは、年代が近いというのもあるかもしれないが、当時流行った歌だとか、ファッションとか、食べ物とか、そういった付属のものですでにノックアウトされてしまうのである。

 「俺が死ぬ理由」とは何か。つねに心の中では、その疑問が渦巻いているのだが、一つのエピソードが、次のエピソードを生み、次から次に出てくる「何故」が気になってしょうがない。気がせきながら、それでも立ち止まって読み耽る楽しさ。それは、きっと、過ぎ去った若き日のことを同じように懐かしみ、愛し、悔しい気持ちでどうしようもないからだろう。

 こういう一文がある。

 「何も持たないということが、学生であるというだけでその他に何も背負っていなかった、あの時代の自分の精神と身体がどんなに軽やかだったのかということを思い知る。」

 この後に続く非常に素晴らしい文章は本文で楽しんでいただくとして、この一文には心底じんとした。まったく共感を持つとともに、かつての楽しくて奔放な生活が思い出されて、何度も繰り返して読んだ。

 わたしは東京―福岡間は何度も運転しているので、ロングドライブでの車中の雰囲気がどんなものだとか、2、3時間運転したらどこのサービスエリアで休憩をとるのかとか、そういったことを知っていたので、まるで同じ空間にいるように感じられ、あとどれくらいで着いてしまうといった心配までして、女性に聞かせられない話も含め、彼らの大学時代の友情には胸が熱くなった。こんな場合、女性が混ざるとたいてい陳腐な展開になってしまってガッカリすることが多いのだが、とても印象的な女性が彼らと一緒になって遊んでくれたお蔭で、ときにはほろりと、最後まではらはらどきどきさせてもらった。

 ロングドライブの終点は、やはり感動だった。エピローグも爽やかに、大好きな一冊となった。

 お薦め。

*************:

 書くのを忘れていましたが、表紙カバーが素晴らしいです。アマゾンから届いて現れた表紙に驚きました。あまりにも素敵だったのです。迂闊にも小路さんの日記を拝見していなかったためどんなものか全く知りませんでした。男性4人がそれぞれ違う方向を向いているイラスト。どんな思いで佇んでいるのか知る由もないのですが、いろんなことが想像できるとてもいいイラストです。小路さんが指定したイラストレーターさんのようです。雰囲気があっていいですね。帯のコピーも小路さんが書かれたようです。「喪服のロングドライブ」「将来なんか何も考えていなかった。ただ、仲間のことだけは思っていた。 一九八〇年、十九歳だった私たちは今、四十五歳の中年だ。」このキャッチコピーにぐっときました。さすがです。

 小路さんへ
 とてもとても面白かったです。
 淳平と父親が会ったシーンは、泣いてしまいました。なんででしょうね。多くを語ってないシーンなのに、ほんとに不思議です。今回は泣かないと決めていたのに……ダメでした。
 
 お仕事大変そうですが頑張ってください。いつも応援しています。
 でこぽん
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『HEARTBLUE』 小路幸也 東京創元社 
2007.12.21.Fri / 13:37 
HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)
(2007/12)
小路 幸也

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  ★★★★★

 うおぉおお萌えた。またしても。

 小路さん、また一段と巧くなったなあ、というのが第一印象。失礼。それほど夢中になって読んだのである。まあ、それはいつものことであるが、例によって涙ありの、あまりの面白さに一気読みだった。

 前作「HEARTBEAT」に続いて、『彼』の友人である巡矢新(めぐりや あらた)の登場である。CGデザイナーとして成功している巡矢のもう一つの拠点、ニューヨークでの話。物語は、前作のラストページでの電話の続きではなくて、前作でも登場したニューヨークの警察官と巡矢が、それぞれに動いていくというもの。

 発端は、失踪人課のワットマンを訪れた少年サミュエルの「ペギーがいなくなったんだ」という言葉。二人はちょっとした知り合いでもあり、ワットマンは独自に捜査を始める。一方、巡矢のほうもあるきっかけから写真に写っている幽霊の少女を調べることになる。それぞれに『彼』を思い出しながら、相手を想い合う気持ちが真実に近づいていく。

 読み始めてすぐに困ってしまった。土台の話をまったく忘れていたために物語に入り込めず、気持ちが宙ぶらりんなのである。さすがにこれではマズいと思って前作を再読した。再読して良かった。もう一度素敵なラブストーリーを読むことができたからだ。

 たぶん本書から読んでも構わないとは思うが、できれば前作を読んでいただきたい。まったく違った風景が見えると思うからだ。じつは本書は、チャイルド・ポルノに言及している。なので、人によっては嫌悪感を覚える方もおられるだろう。だがきっと前作の感動を覚えていれば、さまざまな哀しみや憎しみをおぼえることはあっても嫌な気持ちになることはないと確信する。もちろん幽霊というファンタジー要素があったことも大きいのであるが。

 終始一貫してどこまでも優しい物語である。主人公はもちろんのこと、脇役から果ては幽霊まで。相変わらず小路幸也の世界は優しさでいっぱいだった。最後の最後まで人の気持ちを大事にした話を読むのは、本当に嬉しいことである。

 お薦め。
『カレンダーボーイ』 小路幸也 ポプラ社 
2007.11.27.Tue / 12:51 
カレンダーボーイカレンダーボーイ
(2007/11)
小路 幸也

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  ★★★★★

 現在48歳の三都は大学教授。同じ大学の事務局長である安斎とは小学校の同級生だ。ある日二人は、身体だけ小学5年生になっていた。2006年現在から1968年6月15日にタイムスリップしたのだ。しかも一度ならず、寝て起きるたびに精神だけが過去と現在を行き来する。目が覚めると小学5年生になり、次の日は、その記憶を持ったまま大学教授と事務局長として会話するのである。

 突拍子もない設定なのだが、そこは小路幸也の巧いところで、どんなに変な設定でも物語の枷とはならない。それどころかその設定に魅了させられてしまい、後で考えると「あれ?」と思うようなところでも夢中で読ませられてしまうのだから、さすがである。

 くたびれた中年の身体が一晩でぴちぴちの身体になるのだ。羨ましい。48歳の大人の知識に小学5年の身体が軽々と反応してくれて、まるでスーパーマンのような活躍してくれる。次第に、あたかも自分自身がその場にいるような錯覚をしてきて一喜一憂するのである。

 あのときはこうだったなあと、ぼんやりとしか覚えてないものが、いきなりワープして昭和の時代を再現してくれるのだから嬉しい。そういえば、小学校は木で出来ていたなあ、とか。もちろん机も椅子も木で出来ていたが。そのときの遊びの風景やら暮らしが目の前に出現するのである。ある年齢以上の読者なら懐かしくてたまらないだろう。

 そういうわくわくする出来事がページを捲るたびに起こるのである。が、やはり二人は48歳の大人だった。直に、なぜ自分達がこの時代に戻ってきたのか考えるのである。そして過去の出来事を変えようと思うのだった。三都は一家心中した里美ちゃんを救うため、安斎は大学を救うため。鍵を握るのが、「三億円事件」だった。この後二人の行動はお楽しみということになるのだが、過去を修正するということがどういうことなのか、この小説は教えてくれることになる。

 回収されていない伏線も多く、またすべてを語っているわけではなかったため心残りもあったのだが、それを捻じ伏せて一番大切なことを教えてくれた。大事なのは一つだけ。それは、何かを得るということは何かを失うということ。自分にとって一番大切なことは何か。そして大切なものを守るためには、やはり別の大切なものを失うことしかないのか。そういうことを、改めて考えてみる機会を与えてくれた小説であった。

 最後は、どうしようもなく切なくて切なくて、感動してしまった。
 一気読みである。

 お薦め。

『シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン』 小路幸也 集英社 
2007.05.28.Mon / 13:00 
シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン
小路幸也 (2007/05)
集英社
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 これは凄い。どうしよ、泣きたくなるほど面白かった。実際泣いた。
 
 『東京バンドワゴン』で大好きになった堀田家のみんなにまた会えたよ。思わず頬がほろんでしまう。下町で古書店を営む四世代の大家族。相変わらずみんな元気だった。とくに79歳の三代目店主、勘一さんはバリッバリに元気でまだまだ現役だったし、大黒柱の風格があった。嬉しいねえ。
 
 大じいちゃんやじいちゃんがいる家庭なんて、そんなことドラマの世界だけだと思うのに、この本を読んじゃうと、それがまるで実際にご近所さんにいるよう思えるから不思議。きっと誰でも、こんな大家族のなかで生活してみたくなるんじゃないかな。わたしはずっと昔、楽しかった子供時代や子育てのときを思い出して幸せな気持ちになった。
 
 そんな優しさに溢れる堀田家には四季折々、さまざまな謎が舞い込んでくる。日常のあれやこれやを笑いながらのんびり読んでいると、なんだろう、と思うことが次々に出てくる。もうそれがわくわくと楽しくてページを捲る手が止まらない。この謎のどれもが魅力的で、伏線の張り方がとてもよく出来ていたのには吃驚してしまった。
 涙と笑いをぎゅっと詰め込んで、見事に大家族の素晴らしさを描き出している。堀田家の家族や、あるいは親しくしている人の秘密も明らかになってきて、ますます目が離せなくなってきた。次は誰のお話なんだろう。でも「LOVEだねぇ」は変わらずにあるよね。
 お薦め。

**追記
 ところで、各章の初めに出てくる朝の食事風景ですが、誰のセリフか鉛筆で書いてみました。わからないのがいくつかありました。紺か青か、ちょっとわからなかったです。皆さんはお分かりになったでしょうか。こういうのを考えるのって、とても楽しいですよね。
『東京バンドワゴン』 小路幸也 集英社 
2007.05.28.Mon / 12:53 
東京バンドワゴン東京バンドワゴン
(2006/04)
小路 幸也

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 『シー・ラブズ・ユー』を読みましたので前作の『東京バンドワゴン』の感想を載せておきます。2006年4月29日に「でこぽんの読書日記」にエントリーしたものです。そのときたくさんのコメントとTBをいただきましたのでそれもあわせて転載しておきます。「続き」に載せておきますのでよろしくお願いします。では。

****************************

 面白かった。面白かった。面白かった。

 なんて温かくて良い本なんだろう。こんなホームドラマを読みたかったです。これを書いてくれて本当にありがとう、小路さん。

 なんだかとても嬉しくて平静に感想なんて書けそうにありません。だからこれから先は公開ファンレターになってしまいそうです。

 前々から楽しみにして注文した本です。待って待ってやっと届いた本です。だから、さっさと読んでしまうのはあまりにも勿体なくて、だけど我慢できなくてちょっとだけと思って覗いてみた本はやっぱり面白くて、あっという間に読んでしまいました。本当に至福の時間でした。

 最初の人物表をしずしずと眺めていると、もうそれだけで物語が浮かび上がってきます。明治から続く東京の下町にある古書店・東京バンドワゴン。それを営む堀田家はちょっと訳ありの四世代の大家族です。人の出入りも多ければ、そこはなにかしら事件のようなものが起こります。春夏秋冬、ご近所も巻き込んでおくるちょっとした騒動は読んでいても楽しくてしょうがない。

 昔とても楽しみにしていたドラマに「寺内貫太郎一家」がありました。あのとき泣いて笑った懐かしい日々が浮かびます。ソースだしょうゆだと言葉が飛び交う食事風景。そんなにぎやかな朝の一こまからこの物語は始まります。

 魅力たっぷりな登場人物たちがガヤガヤと動き回り、笑わせて泣かせて物語を先に先に導いてくれます。舞台設定も良かったですね。古色蒼然とした古本屋と、アットホームなカフェテリア。本とコーヒーなんてわたしの大好きなものです。

 古本屋というのは昔から大好きな場所でした。店主がお客を放っておいて本を読んでいるような、だけど、ときどき思い出したようにこちらを気にしているあの独特の雰囲気が好き。ほの暗い場所で、古本の匂いに囲まれながら好きな本を選んでいるときの至福の時間。そんな素敵なひとときと同じ時間をこの本は与えてくれました。何度も読み返してまた素敵な時を過ごしたいと思います。

 お薦めいたします。

▽Open more.
『東京公園』 小路幸也 新潮社 
2006.11.01.Wed / 12:54 
東京公園東京公園
(2006/10/28)
小路 幸也

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  ★★★★★

 ああ、これは素晴らしいな。

 まだ少女と言っても可笑しくないほど若い母親と大学生の話である。カメラマン志望の圭司は、ある日、奇妙な頼み事をされる。「子供を連れて公園に出掛ける奥さんを尾行して、気づかれないように写真を撮ってほしい」と。依頼をこなしていくのと交差して、物語は、圭司の同居人や女友達や姉との出来事が語られていく。

 圭司は、百合香が水元公園から始まって、日比谷公園、砧公園、洗足池公園と、東京の公園を毎日のように巡っていくのを不思議に思う。公園が好きだからか。それとも子育てに疲れているのか。一口に公園に行くといっても、お弁当を作ってベビーカーを抱えて電車に乗って人混みのなかを出掛けていくのである。それはとてもしんどいことだと思う。どうして、百合香は毎日のように公園に出掛けていくのだろうか。ファインダー越しに見つめながら、シャッターボタンを押しながら、そんな日々が続いていくうちに、百合香と圭司との間に漂っていた空気が少しずつ変わっていった。

 読者はまず、百合香といっしょになって東京の公園の景色を愉しんでいく。少し汗ばむ気持ちの良い午後。木漏れ日の柔らかな光を受けて、公園の遊歩道を百合香はゆっくりゆっくりベビーカーを押しながら歩いていく。読んでいると、本当にきらきらと陽射しが差し込んできて、気持ちの良い風が頬にあたるようだ。

 圭司と百合香の間には会話はない。それなのにお互いが何を考えているのか、読者は思うままに知るのである。小路はそれをさりげなく確かな描写で綴っていくのである。周りの景色が一段と鮮やかに浮かび上がってきて、それはまるでずっと昔に過ごした幸せな子育て時代を思い出させてくれる。

 圭司の気持ちは、日々の生活の中で、友人たちと過ごすうちにだんだんとはっきりしてゆくのである。ブックマッチを片手で器用に操って火を点ける同居人のヒロ。「人妻ぁ?」と目を吊り上げる女友達の富永。くすっと笑って目を伏せる姉さん。小路幸也の描く温かくて気持ちのよい人達はいつにも増して魅力的だった。

 気になって気になって仕方がなかった謎。誰もが幸せになってほしいと願って読んだ物語は、柔らかい恋の物語だった。泣いて笑って、至福のときを過ごさせてくれた物語は、とびきり美しい読後感を与えてくれたのだった。

 お薦めです。
『HOMETOWN ホームタウン』 小路幸也 幻冬舎 
2005.08.29.Mon / 12:58 
ホームタウンホームタウン
(2005/08)
小路 幸也

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  ★★★★☆

 中学生の時のある事件のせいで、家も家族もすべて失ってしまい故郷を離れなくてはならなかった主人公が再び故郷へ向かわなくてはならなかった、そんな家族探しともいえる物語です。

 札幌の百貨店に勤める主人公の行島征人。まだ27歳の彼が、デパートでは役付きの部長。ここで彼は特殊な仕事をしています。この設定がいかにもヒーロー物のようで格好いいです。

 物語は、いつもの穏やかな日常の一こまから始まります。主人公の影にはちらちらと不安が付き纏っていますが、まだ何も始まっていません。

 そこへ、何年も会ってなかった妹の木実から、結婚するという手紙をもらいます。ここからこの物語は動き出します。二つの失踪が同時に起こります。一人は結婚も決まって幸せのはずの妹。もう一人は、征人と同じデパートに勤務している、妹の婚約者である青山です。

 征人は彼らを探すために、十年以上も帰らなかった故郷の旭川へ向かうことになります。どんな理由で故郷を後にしなくてはならなかったのか、それはまだわからないのですが、どんな理由にせよ家族が離れ離れにならなくてはならないというのは、そして親がその理由であるなら、子供にとってこれほど辛いことはないのです。

 征人の、淡々と話す内容は、時にはドキリとすることもあり、またほろりとなってしまって考え込んでしまいました。親はどんなときでも子供を守らなくてはならないのです。ずっと〈家族〉というものを追い求めていた征人の、数々のエピソードはこの物語に深みを与えてくれます。

 とにかく征人の性格が良いですね。ひょっとしたら暗くなってしまうだけかもしれない話なのに、そうはならなかったのは、この征人の性格のお蔭です。小路さんの書く人物に悪い人はいません。今回も、ちょっと理由ありの人やヤクザが出来てきますが、そんな人達も決して嫌な感じがしない。どころかユーモラスでさえあるのです。誰もが皆優しいのです。これは読んでいて非常に嬉しいことです。

 私は、征人が故郷の街で久しぶりに再会した場面で、不覚にも涙がでてきてちょっと慌ててしまいました。決して大袈裟に書いてはいません。ですが、少ない文字数に込められた想いにやられてしまったのです。

 じわじわと真相に近づいていく傍らで、征人の周りで助けてくれる人達。家族には恵まれなかったかもしれませんが、征人の傍にはいつでも家族同様の人達がいました。心の中にはいつでも暗い想いがあったかもしれない征人でしたが、これからは妹と共に吹っ切れて上手く生きてゆけるのではないでしょうか。いつまでもじんわりと心に残る話となりました。

 お薦めです。

『HEARTBEAT』 小路幸也 東京創元社 
2005.04.30.Sat / 13:12 
HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)
(2005/04/25)
小路 幸也

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  ★★★★★

 ミステリ・フロンティア第15回配本です。

 今年の雪が降った日から、桜の花が咲く日までと待ち遠しく思い、楽しみにしていた一冊です。表紙のカバー写真は朝焼けのシーンでしょうか。紫がかった綺麗な装丁です。手に持った感じもとてもいいですね。あらすじを読んで、さてCONTENTSです。あら、斜めに印刷されていますね。まあ、素敵。溜息が出そうなくらいに凝った言葉の配列ではありませんか。一体どんな物語なのでしょう。

 一言で表すなら、<奇跡>の話でした。

 不可思議というにはあまりにも美しくて悲しい、だけど希望に満ちた世界です。それを受け入れられるか否かで、この物語の印象は随分と変わってくるのではないでしょうか。

 たしかに小路さんが仰っておられたように、この小説はミステリではないかもしれません。ミステリとして捕らえていると、ラストで脱力してしまうかもしれませんしね。多くの謎が徐々に明らかになっていっても肝心の「弥生」の秘密はそのままでしたし。そんなちょっとした不満も「ハートビート」の答えが明かされたときは、おお、なんて思ってしまったのでした。

 構成に工夫が凝らされ、少年と男性、少女と女性の視点で交互に語られ、そしてキーパーソンとなる男性が物語の真実を明かします。

 優等生の委員長と不良少女の恋。十年後の約束。一億円の謎。少女の居場所。ニューヨークの<暗闇>。失踪の理由。おばけ。

 マッチブックの格好良い火の点け方を教えてくれた最高の「相棒」は、どんな想いで過去を思い、未来を思ったのでしょうか。いえいえ、そういう考えが及ばない、言葉にも表すことが出来ないほど、甘くて切ない想いがあったのでした。

 帯には「信じている。いつかまた会えることを。」となっていました。これを私は単に<再会>という意味だけに捉えていたのです。ですが、読み終わってこの言葉を眺めていると、ああそうだったんだと、ずっとずっと切なくなってくるのでした。

 小路さんの作品が大好きな理由の一つに、読後の余韻を持ったまま頁の最初に戻ることがあります。今回もすぐ再読したくなりました。読み始めて驚きました。最初の印象と全然違っていたのです。甘くて、頼りなくて、儚くて、優しい。そんなお話なのでした。

 とにかく、面白いです。面白くて、面白くて。物語に引き込まれて、捲る手が止まりません。
 そして、ラストです。……。

 お薦めです。

 マイレコに投稿させていただきました。
 http://myrecommend.jugem.jp/?eid=417
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小路幸也「HEARTBEAT」読書中 
2005.04.29.Fri / 13:03 
HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)
(2005/04/25)
小路 幸也

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 今日、bk1に予約していた『HEARTBEAT』が届きました。すぐに読めばよかったのですが、今頃になって読んでいます。半分ちょいぐらいでしょうか。

 とにかく、ものすごく面白いです。

 ちょっと複雑な構造をしている小説ですね。いつものように視点が変わりますが、わかりやすい描写なので、読んでいてとても楽しいです。

 ただ、登場人物が非常に多いです。気合を入れて読んでいますので、なんとかなっていますが、漠然と読んでいたり、ちびちび読んでいたら分からなくなってきそうです。でもまあ、とにかく物凄く引き込まれますので、それは杞憂に終わるでしょう。それに、やっぱり、いつもの小路作品と同じで、出てくる人達がみんな素敵なんですよね。読んでいて気持ちがいいです。とくに「ぼく」が好きです。小路さんは子供の描写がすごく巧いです。

 今回、謎が多いです。あえて漠然と語っているようなところがありますので、先が気になって仕様がないです。

 これは、ミステリでしょ?

 今のところ、断然ミステリなのですが……。

 小路さんは、「〈ミステリフロンティア〉から出すのに、本格どころか、全然ミステリですらないのです。」なんて仰っていましたが、ミステリチックでわくわくしてきます。
明日、感想が書ければいいのですが、またまた4時間テニスなんですよね~。

 さてさて、どうなることでしょうか?
 ではまた。

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 それではどうぞよろしくお願いします。

 高速画像表示にするため、「広告あり」に設定しました。ちょっと邪魔ですがよろしくお願いします。2011/12/21

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 感想でいらした方は、カテゴリの[国内海外]の感想をクリックしていただくと日付順に表示されますので見やすいかと思います。
 でも最近は感想文は書いてないです。すみません。

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 カテゴリのところをちょっといじりました。
 ドールはmomoko、Misaki、Barbie、FRと分けて、それぞれの全記事が表示できるようにしました。少しは使い勝手がよくなったと思うのですが、どうでしょうか。2008/7/23

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 薔薇の黒背景は画像が綺麗に見えるので私も好きでしたが、やはりエントリ別に見るときは使い勝手が良くないようです。CSSを弄れるといいのですが、このレベルになるとさすがに勉強しないと無理なのでやめました。ずいぶん粘ってみたんですけどね。なので元に戻しました。またそのうち黒背景にすると思います。2008/09/24
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 そうそう。コメントは「OPEN▼」でも読めます。いちいち戻らなくてもいいので便利かもしれません。

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