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『受命 Calling』 帚木蓬生 角川書店 
2006.08.18.Fri / 20:20 
受命―Calling受命―Calling
(2006/07)
帚木 蓬生

商品詳細を見る

 『受精』の続編。と言っても、わたしは読んでないのでストーリーがどう繋がっているのかはわからないのだが。帚木蓬生と聞いただけで真っ先に読みたくなるのはいつものこと。長編は安定しているし、最近なにかとお騒がせな北朝鮮が舞台とあっては期待せずにはいられない。タイトルの「受命」という文字から連想して医療ミステリーなのかと思っていたのだが、北朝鮮が絡んできてるとあっては、やはりそんな単純な話ではなかった。「天命を聞くのが受命(コーリング)です」という使命のもとに、現指導者に対して、予想していたよりもとんでもない展開になっていたのには驚いた。
 超一級の国際サスペンス、を意識して書かれたかどうかわからないが、帚木蓬生にスピード感を求めることはないし、冒険小説を読んでいるつもりもないので、このそっけないほどの心理描写がいっそ清々しくて良い。心情を抑え、淡々とした描写から吐き出される登場人物の吐露が、この作品に一層の緊張感をもたせているのは間違いないだろう。

 『受精』で登場した津村、舞子、寛順(カンスン)に加え、寛順の亡くなった恋人の弟・東源(ドン・ウオン)の四人。それが彼らの運命のなせる業なのか、偶然にも同時期に北朝鮮に入国、潜入。津村は先進の生殖・再生医療の臨床と研究指導を依頼されて平壌産院に。北園舞子は在日朝鮮人の平山会長のお供で万景峰(マンギョンボン)号で平壌入り。寛順と東源は脱北した韓国人実業家から極秘使命を受けて密入国する。と、そんな彼らが後半、一本の糸として繋がる。今までののんびりした観光旅行気分も一転してサスペンスフルな出来事になるのだが、じつはそれほど驚くものではない。

 それより、この10年間、現指導者が行ってきた傍若無人な振る舞い、あるいは自己中心的な思考に驚嘆せざるを得ない。また、北朝鮮の風景や生活情景にも大いに目を奪われた。津村の眼を通して見る平壌の街の様子や、田舎の風景はまるで見てきたよう生き生き描かれている。そんな北朝鮮の生活情景は、今まで漠然と考えていた以上の危機感と絶望しかなく、哀しみが胸に広がってゆくのである。国民は飢えて餓死し、軍自体も現指導者の私兵になり下がった、とんでもない国、北朝鮮。その北朝鮮の深層を抉り出してくれているのがこの作品である。

 序盤、中国から川向こうを眺めながら、津村の旧友、車世奉(チャ・セボン)が言います。


 少しでも畑を作ろうとして、木を切り続けた結果があれです。北朝鮮のなだらかな山はたいていあの姿になっています。考えてもみて下さい。山を開墾したからといって、おいそれと米や麦、野菜ができるわけはありません。水と肥料がいります。あの国では肥料など供給されません。肥料工場の操業がとまっているからです。原料不足と電気不足が原因です。水も、灌漑施設はおろか棚田にもしていないので、降った雨は山肌の表土を削っていくだけです。


 
 津村は車世奉に背中を押されて北朝鮮に行くことを決意します。北朝鮮という国がどういう国であるのか、私たちは知る義務があります。
 津村や舞子、あるいは脱北者、在日朝鮮人、韓国人、北朝鮮といった様々な人間が北朝鮮に対して感じて言っていることは、立場が違って見えるものが違っていても、個人が「ふつう」に生きていくことの難しさと大切さを教えてくれます。それを知るだけでもこの小説を読む価値はあります。
 お薦めします。
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