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『聖灰の暗号』 帚木蓬生 新潮社 
2007.08.05.Sun / 21:14 
聖灰の暗号 (上)聖灰の暗号 (上)
(2007/07)
帚木 蓬生

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聖灰の暗号 下 (3)聖灰の暗号 下 (3)
(2007/07)
帚木 蓬生

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 なんと言ったらよいのか、とても一言では言い表せないほど重厚で胸にずしんとくる小説だった。

 中学よりミッションスクールに通い、好き嫌い如何にかかわらず毎日礼拝があり、週一度は聖書の授業もあり、ついでに英語で聖書を読んで英語で賛美歌を歌って、日曜日は日曜日で強制的に教会に行かせられて聖書がぼろぼろになるまで(別に熱心に読んだというのではなく毎日持ち歩いたら誰だってぼろぼろになってしまう)読んで学生時代を過ごしたわたしにとって、信仰をテーマに人間としてどう生きていくかを問うた(と思っている)「カタリ派」を扱ったこの物語を読めたことは、非常に有意義な読書体験であった。

 さすがに毎日礼拝があれば嫌でも聖書の内容は頭に入ってくるし、書かれている言葉の多くは馴染みのものとなってくる。多少の理解もあっただろう。だけどクリスチャンではないので、胸のうちに染み込んでくる言葉としては捉えていなかった。有難い聖書の言葉であっても、都合の良いものだけを残して完璧に流してしまっていたというのが実状である。そんな罰当たりなわたしが、心底心を揺さぶられて涙まで流してしまったというのが、この中に書かれてある修道士の詩であり、聖書の言葉といっしょに書かれていた手稿なのだ。

 物語は、若き歴史学者の須貝がカタリ派の異端審問について書かれた古文書を探すためフランスの地方図書館を訪れたところから始まる。この異端審問に関わったと思われるのが下級修道士のレイモン・マルティだ。彼の一遍の詩を偶然目に留めた須貝は、残りの手稿を探すべく友人の手を借りて手稿の暗号を解いて、ピレネー山麓に探しにいくというのがストーリーの軸となっている。殺人事件も起こり、サスペンスと歴史的事実が同時に進行していくという、かなりスリリングな読書といえるのである。

 カタリ派に関するローマ教会の審問と弾圧が過酷な時代に、異端だと言われ、信徒と聖職者の多くが火刑にあったカタリ派とは、いったいどんな宗教で、どういう迫害を受け、どうやって滅ばされたのか。須貝はカタリ派最後の砦となったモンセギュールの山に立って考えてみるのである。それは歴史の秘密であるため、研究者としては当時の審問記録を丹念に調べるしかなかった。その須貝が異端審問に関わったという修道士の手稿を見つけたときの興奮は推して知るべしだ。残りの手稿は必ず手に入れるという強い意思も働き、その道程は魅力的な人物も登場して、なかなか楽しめた。

 そして、それよりなにより圧巻だったのが、異端審問のやりとりを記録した修道士レイモン・マルティの手稿なのである。そしてこれこそがこの小説の核であり、本来書きたかったことではないかと思う。大司教パコーとカタリ派のアルノー・ロジェとの激しいやりとりだ。通訳するマルティが書き残した文章は、まさに当時の修道士が書いたと思われるような文体であり、驚くべき迫力で読む者を圧倒するのである。

 宗教に関してはどちらが正義でどちらが悪なのかは簡単に言えないだろう。だから本書に書かれたことが史実かどうかは果たしてどうでもいいことである。だけど人としてどんなふうに考え、どういうふうに生きるかということはとても重要なことだろう。それさえ間違えなければ本書が読者にとって意義のあるものとなるのではないか。少なくともわたしはそうであった。

 「アキラ、私たち歴史家の仕事は、あそこに葬られている偉人たちの歴史を顕彰することではない。それは誰か、他の連中に任せておけばいい。私たちはそれまで見えなかった過去を見えるようにしなければならない。見えているのに気づかなかったり、見ようともしなかった過去を明瞭にするのが任務なのだよ。ちょうど科学者が顕微鏡をのぞいて細胞を発見したり、病原体を見つけたりするのと同じだ」本書82頁。

 最後に、冒頭に出てくるマルティの詩を。(著者の創作である)


  私は悲しい

 空は青く大地は緑。
 それなのに私は悲しい。

 鳥が飛び兎が跳ねる。
 それなのに私は悲しい。

 生きた人が焼かれるのを
 見たからだ。
 焼かれる人の祈りを
 聞いたからだ。
 煙として立ち昇る人の匂いを
 かいだからだ。
 灰の上をかすめる風の温もりを
 感じたからだ。

 この悲しみは僧衣のように、
 いつまでも私を包む。
 私がいつかどこかで、
 道のかたわらで斃れるまで。

  レイモン・マルティ


 この詩に少しでも心が引きつけられるのであれば是非読んで頂きたい。
 お薦めです。
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