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『夢を与える』 綿矢りさ 河出書房新社 
2007.02.19.Mon / 00:58 
夢を与える夢を与える
(2007/02/08)
綿矢 りさ

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 すごいな、綿矢りさ。
 
 文章が凝っているので、とてもじゃないが勿体無くて一気読みなんてできない。それを噛み締めるように読んでいくうちに、なんとも言えない切ない高揚感でいっぱいになる。まさに文学。とんでもなく面白い。と言っても、この話が好きかと問われれば、即座に嫌いだと答えられる。なんとも評価の難しい本である。
 
 ストーリーは、主人公が生まれる前から始まり、チャイルドモデルから芸能界へ入っていった夕子の十八歳までの話。幼い頃からTVの中で生きてきた夕子が、高校生になった途端にブレイクする。芸能界の裏側と、普通の高校生としての落差に戸惑う姿。そのギャップの痛々しさに目が離せない。とくに恋を知ってからの話は、とうてい平静な心境では読めない。芸能界のことにそれほど興味のない私なので、夕子が栄光を掴もうが失敗して干されようが、大して興味はない。そんな私でさえ、ぞくぞくする胸の疼きは止められなかった。
 
 綿矢りさは、なぜこれほどまでに救いのない話を書いたのだろうか。馬鹿な主人公、薄っぺらな性格、陳腐な設定、どこかで見聞きしたようなストーリー。どれ一つとっても手垢にまみれたものだ。新鮮さなんてどこにもない。あとに残るのは脱力感だけだ。だが綿矢がすごいのは、この凡庸なものを圧倒的な文章力と研ぎ覚まされた感性でねじ伏せてしまっているところにある。例えば夕子の容貌だが、赤ん坊のときに可愛らしかったという描写があるのみでそれ以降、美少女だという件はない。なのに夕子の、美しくすこやかな感受性が周囲から際立ってくるのは否定しようのない事実だ。薄っぺらだと思った性格が終盤のセリフからとんでもなく化けていくさまは、感動すら覚える。
 
 どこにでもある幸せな家族であった。夕子が願ったのは、決して特別なものではなかった。ささやかな幸せである。決して華やかなスターとなることではなかった。だけど、父と母との諍い。芸能界での一時も気の抜けない忙しい日々。少しずつ少しずつズレていく日常生活は、どんなに願ってもあの頃の幸せな日々には戻れなかった。家族が壊れ、夢が壊れ、自分の居場所さえも壊れていく。こんな既視感のあるどろどろしたストーリーでさえ綿矢にかかると、ただただ哀しみだけが胸に広がってゆくのだった。それが透明感のある文章だというだけでなく、言葉のもつ力強さにもつながってゆくのだった。それはやはり綿矢のように特殊な状況に置かれた者だけしか感ずることができない感覚ではないだろうか。だから読者は陳腐な設定にもかかわらず、ぞくぞくするほどの魅力を感じるし、綿矢の才能に感服してしまうのだ。
 
 まったく容赦がなく救いのない話だったのに、なぜかそれほど嫌な気分にはなれなかった。それはきっと、落とすところまで落としてしまった潔さにあるように思えて仕方がない。あるのは、夕子の幸せを願う気持ちである。ああ、だから綿矢はあえて救いのない話を書いたんだな、と思った。そして、いつまでもいつまでも心の中に残る小説になった。
 
 どんどん作品を書いて欲しい。私にとって綿矢りさは、どんなものでも読みたいと思う作家となった。
 
 お薦め。
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